FLOWERS Le volume sur printemps

ごきげんよう
FLOWERS

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年4月18日にInnocent Greyより発売の百合系ミステリィADV(全年齢対象)。

寄宿制の女子校である聖アングレカム学院へ入学した蘇芳は、次第に周囲との交友を深めていき、時に難事件を解決します。

まさに百合ゲームですね。直接的すぎず露骨でもなく、かといって無関係でもないシーンがつながり、不意に決定的な百合シーンが入ることもあり、心地よく作中の世界に浸ることができます。女性しか登場しない、というのも繊細な百合作品では重要なことでしょう(そうでなければ寄宿制の女子校という閉鎖空間の意味が失われてしまいます)。ここぞという百合シーンには抜け目なくイベントCGが入り、その構図や精緻なグラフィックも含め非の打ちどころがありません。3人一組でのアミティエ制度が始まったばかりという設定は三角関係を予感させるものですが、その期待(?)が裏切られることはないようです。捉え方にもよるでしょうが作中では静かな修羅場が数回入っており、学院という場の雰囲気もあってか婉曲的なセリフ回しにはハラハラさせられます。

沙沙貴姉妹は嫌われ役を佳くがんばっていると思います。蘇芳まわりを安易にモテさせない点やラスト付近の演出等々、百合的な表現にかなりのこだわりが見られます。マユリや立花の蘇芳をめぐる感情表現は、ここまで繊細なものはなかなか見られないかと思います。車椅子の少女はツンデレでありながら、もっとも少女らしさが出ているキャラという印象があります。それにしても、14歳であの映画や小説の消化量と理解度は、わりと普通なんですかね。

設定周りについて。本作の核をなすアミティエ制度、アミティエ(amitié)は友情を意味するフランス語であり、百合作品にはぴったりの舞台装置です。と同時に、恋愛関係は制度を逸脱したレベルとの暗黙の了解が学院内に広まっている可能性があり、居たたまれなくなった生徒が姿を消してしまう事例も散見されるようです。七不思議のひとつ、物言わぬ真実の女神は特にその一例のように思えてなりません。恋愛関係に至った生徒の居場所がない現状では百合的にハッピーエンドを望むのは困難であり、生徒側が折り合いをつけるのか、学院側が対応するのか、いずれかが求められるところでしょう。はっきりとはしませんが1学年に1クラスしかないのだとすれば、1クラスのアミティエはたったの8組であり、なるほどバスキア教諭1人でも充分目の届きそうな数ではあります。作中ですでに学院を去った生徒も数人おりすべてが3人組ではなくなってきていることから、アミティエのメンバー組み換えという無慈悲な処置も今後ありうるかもしれませんね。
また、本作の年代は賞味期限のエピソードからして2014年春のようです。実際の日付とは曜日がずらしてありますので、あくまで架空の物語ということなのでしょう。日数の経過は数日後、とおおよそで表現されることが多くありながらも、裏設定では日付が決められていそうな細やかさを感じます。学院は日本でいうところの中学校にあたると思われ、高校や大学の機能の有無に期待が持たれます。

システム面について。時折現れる難読漢字はルビが振られていますので安心です。読み進めていると選択肢が多数登場し、選ぶたびに百合ゲージが緑色か黄色に点灯します。1週目は緑色の選択肢が”正解”であり、クイックセーブを併用すれば”正しい選択肢”を楽に選び続けられるようになっています。

推理要素について。ノーヒントで始めた初回は、最初の推理で見事にゲームオーバーを迎えました。選択肢を1つでも間違えると、容赦なくあっさりとゲームオーバーを迎えます。車椅子の少女に揶揄されようとも、総当たりで行けば通過できるのはせめてもの救いでしょう。ヒントは提示されますが、一般とはいえないレベルの教養がなければ正解にはたどり着けない事件もあり、かなりの手ごたえです。推理小説は得てしてそのようなもので、一般読者ですら解決できるような内容であっては探偵役の立つ瀬がない、ということになるわけですが、だとするならば選択肢の登場回数はもっと少なくても佳かったのではと思います。

本作は春(printemps)の章にあたり、続編が計画されているようです。続編では新キャラの登場もあるでしょう。本作はすでにサウンドトラックが発売されていますが、音楽に関しても季節ごとにアレンジされたサウンドトラックが出るのでしょうか。必要になったいくつかの新曲とアレンジバージョン数曲、というのが現実的かもしれませんが、こちらの変遷も気になるところです。