美少女万華鏡 ―かつて少女だった君へ―

美少女万華鏡 ―かつて少女だった君へ―

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年2月28日にωstarより発売のオカルティック官能ADV(18禁)、美少女万華鏡シリーズのスピンオフ企画。
山間の温泉旅館で仲居として働くはるの元をカメラマンの草太が訪ね、一泊イチャイチャして帰っていきます。

ダウンロード版600円という低価格さが最大の特徴でしょう。2時間前後で読み終わります。Hシーンのグラフィックは差分含めて200枚以上あり、うち2回はアニメーションしており、一般的なフルプライス作品と比較してプレイヤー視点でのコストパフォーマンスは確実に上回っています(内容の好みはあるでしょうが)。一通りのHシーン、冒頭と末尾のくだり、通常会話、ちょっとだけ登場の蓮華やオカルト要素、ラストのオチが整然と揃えられており、いわばエロゲーの会席料理といった様相を呈しています。

以降は余談ですが、草太の泊まった部屋は、あの内装と料理で貸切露天風呂付き、はるのおもてなしっぷりからすると、2万5千〜3万2千(税別)くらいではとみています。ゲームのボリュームに関してですが、価格はこれほど下げなくてもいいので、フルプライス作品はもっとコンパクトでいい気がしますね。正直消化しきれないので。

NO・I・A・NA

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年2月1日にサークル虹猫により公開のADV(R15)(フリーゲーム)。

主人公は島の少人数な学校に通い始め、クラスメイトとの交流を深めてゆきます。

序盤からハーレム状態の主人公が通う学校は、訳ありの生徒の集まりであることが冒頭で説明されますが、その実態は特殊な能力を有する生徒の集まりであることが次第に明かされます。作品は嘘をテーマとしており、大小様々に重ねられた嘘の上に成立する日常、その土台が時に剥がれ落ちる様子などが描かれていると思います。嘘をつくことは、真実を隠すことと虚構を提示することを同時に実行しますので、しっかりとした嘘であれば、それで人々は平穏に生活していけるわけですね。生徒たちの能力も嘘と密接に関連するものであり、能力ゆえに本心で語ることが困難になっている面などもあるようです。(あんまり理解できてないので、たぶん後日追記します。)

FLOWERS Le volume sur printemps

ごきげんよう
FLOWERS

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年4月18日にInnocent Greyより発売の百合系ミステリィADV(全年齢対象)。

寄宿制の女子校である聖アングレカム学院へ入学した蘇芳は、次第に周囲との交友を深めていき、時に難事件を解決します。

まさに百合ゲームですね。直接的すぎず露骨でもなく、かといって無関係でもないシーンがつながり、不意に決定的な百合シーンが入ることもあり、心地よく作中の世界に浸ることができます。女性しか登場しない、というのも繊細な百合作品では重要なことでしょう(そうでなければ寄宿制の女子校という閉鎖空間の意味が失われてしまいます)。ここぞという百合シーンには抜け目なくイベントCGが入り、その構図や精緻なグラフィックも含め非の打ちどころがありません。3人一組でのアミティエ制度が始まったばかりという設定は三角関係を予感させるものですが、その期待(?)が裏切られることはないようです。捉え方にもよるでしょうが作中では静かな修羅場が数回入っており、学院という場の雰囲気もあってか婉曲的なセリフ回しにはハラハラさせられます。

沙沙貴姉妹は嫌われ役を佳くがんばっていると思います。蘇芳まわりを安易にモテさせない点やラスト付近の演出等々、百合的な表現にかなりのこだわりが見られます。マユリや立花の蘇芳をめぐる感情表現は、ここまで繊細なものはなかなか見られないかと思います。車椅子の少女はツンデレでありながら、もっとも少女らしさが出ているキャラという印象があります。それにしても、14歳であの映画や小説の消化量と理解度は、わりと普通なんですかね。

設定周りについて。本作の核をなすアミティエ制度、アミティエ(amitié)は友情を意味するフランス語であり、百合作品にはぴったりの舞台装置です。と同時に、恋愛関係は制度を逸脱したレベルとの暗黙の了解が学院内に広まっている可能性があり、居たたまれなくなった生徒が姿を消してしまう事例も散見されるようです。七不思議のひとつ、物言わぬ真実の女神は特にその一例のように思えてなりません。恋愛関係に至った生徒の居場所がない現状では百合的にハッピーエンドを望むのは困難であり、生徒側が折り合いをつけるのか、学院側が対応するのか、いずれかが求められるところでしょう。はっきりとはしませんが1学年に1クラスしかないのだとすれば、1クラスのアミティエはたったの8組であり、なるほどバスキア教諭1人でも充分目の届きそうな数ではあります。作中ですでに学院を去った生徒も数人おりすべてが3人組ではなくなってきていることから、アミティエのメンバー組み換えという無慈悲な処置も今後ありうるかもしれませんね。
また、本作の年代は賞味期限のエピソードからして2014年春のようです。実際の日付とは曜日がずらしてありますので、あくまで架空の物語ということなのでしょう。日数の経過は数日後、とおおよそで表現されることが多くありながらも、裏設定では日付が決められていそうな細やかさを感じます。学院は日本でいうところの中学校にあたると思われ、高校や大学の機能の有無に期待が持たれます。

システム面について。時折現れる難読漢字はルビが振られていますので安心です。読み進めていると選択肢が多数登場し、選ぶたびに百合ゲージが緑色か黄色に点灯します。1週目は緑色の選択肢が”正解”であり、クイックセーブを併用すれば”正しい選択肢”を楽に選び続けられるようになっています。

推理要素について。ノーヒントで始めた初回は、最初の推理で見事にゲームオーバーを迎えました。選択肢を1つでも間違えると、容赦なくあっさりとゲームオーバーを迎えます。車椅子の少女に揶揄されようとも、総当たりで行けば通過できるのはせめてもの救いでしょう。ヒントは提示されますが、一般とはいえないレベルの教養がなければ正解にはたどり着けない事件もあり、かなりの手ごたえです。推理小説は得てしてそのようなもので、一般読者ですら解決できるような内容であっては探偵役の立つ瀬がない、ということになるわけですが、だとするならば選択肢の登場回数はもっと少なくても佳かったのではと思います。

本作は春(printemps)の章にあたり、続編が計画されているようです。続編では新キャラの登場もあるでしょう。本作はすでにサウンドトラックが発売されていますが、音楽に関しても季節ごとにアレンジされたサウンドトラックが出るのでしょうか。必要になったいくつかの新曲とアレンジバージョン数曲、というのが現実的かもしれませんが、こちらの変遷も気になるところです。

赤ノ反照

『赤ノ反照』をよろしく!

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年3月20日にサークルApis nestより公開のヤンデレサスペンスノベル(R15)(フリーゲーム)。

恋人を殺めてしまった主人公は幼馴染の助けによりアリバイを築き、かりそめの平穏な生活を取り戻します。

読みごたえのある語り口や冒頭の重苦しい雰囲気、登場時点ですでにヤンデレ状態の亜紗奈など複数の要素で楽しむことができます。ヤンデレヒロインが登場する作品は終盤で死傷者が出ることが多いのですが、本作では最初に凛が半ば事故で息絶え、亜紗奈が主人公を疑いの目から逃れされるストーリーであるため、独特の展開を見せています。不確定要素の大きい状況下では、先の展開を読みにくくなるのが面白いですね。美華夏が主人公だけに見せる表情は、その経緯は語られませんが、ドMでないと辛い思いをすることになりそうです。システム面ではスキップ機能が目に見えないほど速いです。

重厚なナレーション付きで続編が予定されていますので、いくつかの伏線は解答編で回収されるのでしょう。亜紗奈の携帯に届いたメールには何が書かれていたのか、亜紗奈は何に勝っていたのか、毎日倉庫で何をしていたのか、他の罪状とは何か、本編中では明らかにされていません。特にラストに登場した人物は一体何者なのか見当もつきませんが、ここに来てファンタジー要素というわけでもない気がしますので、冒頭に登場していたのは双子のもう片方もしくは替え玉であって、本人は倉庫で監禁されていたという線が考えやすいところでしょうか。

FLOWERS 体験版

ごきげんよう
FLOWERS

(※ネタバレをいろいろ含みます。相当読み違えしてますが放置します。)

2014年4月18日にInnocent Greyより発売予定の百合系ミステリィADVの体験版(全年齢対象)。

第二章の一部を抜粋。紛失していた図書がある日寄宿舎の部屋で見つかり、蘇芳は図書を置いた犯人を推理します。

タイトル画面から流れる安定感のあるサウンド、開始時の文学的表現、淡い色彩で描かれるキャラクターや歴史的な洋風建築を思わせる背景など、本作の雰囲気を十分に味わえる内容のようです。ボリュームに関しても、体験版はこれくらいの長さで佳いと思います。
気になる百合要素はというと、体験版の段階で明確に確認できる点は少ないですが、蘇芳がガチ勢であることは想像に難くないことと思われます。ほかのキャラはほぼ不明ですが、マユリ→蘇芳→立花の三角関係が素地にある可能性を想定しておくのも面白いかもしれません。百合フィルターを通して見ると素敵なシーンが多そうですが、ミステリィとジャンル名にあることから、思わぬところでプラスやマイナス方向の裏切りが見られるでしょうから、その点では静かながらもスリリングな面持ちで読み進めることになりそうです。
さて、車椅子の少女の名前ですが、置かれていた本を上から順に4冊目までを見ることで確認できます。が、2〜4冊目の名前が不明な状態でどう推測すればよいのか……。”あの本”が『マグダラのマリアの生涯』であると仮定すると、車椅子の少女の名前は○○マリアと直結します(○○の部分は不明ですが、しいて言えば嵐が頭文字でしょうか)。作中で説明が入るマリーゴールド花言葉(嫉妬、悲しみ、絶望)と聖母マリアの黄金の花であるという特性、ほかの登場人物は名前が花になぞらえられていることなどから、候補としてはもっとも有力でしょう。

1人殺すのも2人殺すのも同じことだと思うから 12月編

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

2014年1月1日にサークル虹猫により公開の異能力×病み・猟奇ノベル(R15)(フリーゲーム)。

シリーズ完結編。陰暦3姉妹の過去エピソードを中心に、数々の謎が明らかになります。

終始ぶれることのないみすずはある種ダークヒーロー的で、当主としての貫録も実力も十分といえそうです。
待ちに待ったタイトルコールは1年前の12月31日に用意されていました。みすずが殺害を繰り返すようになるきっかけには、なかなか年相応な一面もあったようです。もっとも遊び感覚で実行する感性については、家系の存続を重視するあまり子供への対応に差が出すぎたみすず母の感性とも合わせて、やや病的であったと言わざるをえません。病的といえば、思い返せば大半の登場人物は1度は病んでいましたね。

ラスト付近に残された謎もありました。後に回答が示されるかは不明ですが……。
・みすずのいすずの行方
みすずのいすずはそのまま存続していそうですね。いすずが消えてしまうとみふゆの能力も使用できなくなるはずですので大幅な能力ダウンにつながるため、みすずが自ら消そうとすることはないでしょうし、いすずが自ら発動するような事態も確認されていませんので、そのまま健在でしょう。
・手紙は誰から誰宛てか
ありていに推測すれば、"更生して"大阪研究所の施設長となったみすずから、はるまとみふゆに宛てた手紙でしょう。はるまとみふゆの霊圧が消えていればみすずは気付いていそうなものですが、距離的な理由で気付いていないという可能性はあります。
・14年後の陰暦さん
4コマにありそうなフレーズですが、それは置いておいて。普通に考えて、はるの後追いで誕生したみすずの子でしょう。もうひとりの親はまつなと考えるのが妥当でしょうか。もしくは研究所で調達した未登場の人物でしょう。この場合、会話の様子からしてはるを養育したのは鷺沼家の残党なのではということにもなってきますけど。あとこっちみんなw

ここまで読んできましたが、ジャンル名の通り異能力×病み・猟奇要素がR15の範囲で各話に配され、伏線が多数用意されながらも先の読めない展開で最後まで楽しく読むことができました。個人的には、何がどうなるかわからないという物語は面白いと思えます。その点みすずはとても良いキャラをしていたわけですが、何をもって予想できるかできないかというのは難しいところです。しいて言えば、あらすじやコンセプトの部分から感じ取れるもの、ということになりますが、そこには被害の程度や対処方法の予想できない脅威の存在がメインに据えられているような気がします。

Ringlet the Fairytale(033+3)

(※ネタバレをいろいろ含みます。)

サークルProject Ringletによる民俗学入門Novel(全年齢対象)。
ヨーロッパからオセアニアまで、世界中のFairytaleを収録しています。サイト上ではFree Edition(032+2)を公開中。Package EditionにはUIの改良や追加のおまけがあります。話数はフリー版は99話、パッケージ版は108話を予定。本編はElse Lancaster(9)と時折会話を挟みながら各話を選択して読むことができます。また、あとがきから各話の詳細な解説を読むことができます。(前回の感想

#28 庶民が一瞬にして富を得たり出世する話は、各所にあるものですね。それだけ大多数の庶民はお金に困っていますし、出世もしませんし、ネズミに困らされていたということには違いありませんが。予期せず貰ったものとはいえ、王様からの財宝を惜しげもなく譲り合う姿勢はまさに紳士淑女ですね。
#29 幼女から金銀財宝を巻き上げる外道の極み。詐欺行為のはびこっていた時代でしょうから、ヴォヂャノイを見かけたらこうすべき、というよりは、このレベルの話に騙されてはいけないという反面教師としての教育的な側面があったかもしれません。
#30 リア充にチート装備を持たせるスタイル。リゼットが何度も確認していたので、廃墟で悪魔を倒すのはかえって良くないことなのではとも思いましたがそんなことはなく、単にロドリグの身を案じていたようです。血統ではなく戦闘能力の高い者が王になれるというあたり、戦争に特化していた時代だったのでしょう。
#31 キス厨の魔女の息子はあっさりと殺しをやってのけるわけですが、それは家庭環境や、当時の短い平均寿命などが相まっての描写だったという可能性はあります。オレンジを取られて殺意の波動に目覚めた魔女は、実際にいた可能性がありますし、当時やそれ以前から所有権の概念が如実に存在していたという証左ともなっています。
#32 ファンタジックでゆるふわ感があります。現地では実写化とかされているのでしょうか。生き物は大切に、ということでしょうが、農家では害虫駆除は欠かせないでしょうし、これを読んだ子供たちは様々な思いを抱えながら大人になっていったのかもしれません。
#33 周囲に誰も住んでいませんが、義父はノーカン。一般人のいなくなった地を舞台にした魔法バトルというのは、最近も作られていそうな話です。